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WRITER:DAG FORCE
#3.
Research Trip
2017
NN調査旅行紀行 Portland編Vol.3 最終回
〜自由の国アメリカで、最も自由な街の働き方〜
ポートランドは、計画的に設計されたサスティナブルな成長を遂げる都市として、市民に質の高い環境を提供してきました。そのため、多くの住民や旅行者が、この自由で素敵な「Wierd City へんてこな街」を愛しています。地元愛の強さは、ローカルビジネスを育み、独自の経済圏や文化圏を形成し、若者の起業を後推ししています。街全体に活気があり、実際に数多くの画期的な発明やサービス、食文化が育まれています。
自由の国アメリカで、最も自由な街ポートランドに暮らす人々は、一体どのような働きかたをしているのでしょう?
NN調査旅行紀行 Portland編 最終回の今回は、世界で最も注目される街で暮らす人々の「働き方」について紹介していきたいと思います。
かつてのポートランドは、鉄鋼業が盛んに行われ、同時に農林業が発展し、世界有数の小麦の取引港でもありました。その後、インテルをはじめとしたハイテク企業がキャンパスを構え、同都市圏内には、1,200以上のハイテク企業が密集したため「シリコン・フォレスト」という名前がつきました。同市には、ナイキやコロンビア・スポーツ、ワイデン+ケネディなどの世界的有名企業が本社を構えています。消費税がなく、新規事業に対する税制上の優遇もあり、様々な若い企業が誕生しています。カフェでは、ポートランド特産のブレンドティーやコーヒーを片手にノートPCを開き、個人やグループで仕事をしている姿を多く見かけました。シェアオフィスの世界最大手「WeWork」のコワーキングオフィスもポートランドに進出しています。ということで、百聞は一見に如かず!まずは、飛び込んでみることにしました。
〜ポートランドのWeWorkで感じたこと〜
WeWorkとは、ご存知世界最大のシェアオフィスカンパニーです。その企業価値は2兆円以上に登り、世界中の多くの都市にコワーキングスペースとなるシェアオフィスを構えています。利用者は、それぞれのプランに合った定額料金を払うことで、WeWorkが提案する刺激的で質の高い「ワークスペース」「コミュニティ」「サービス」を、世界中どのオフィスでも得ることができ、自由な仕事のスタイルが実現できます。というのが、WeWorkが提唱している理念です。
ポートランドには現在2つのWeWork オフィスがあり、我々はそのうちの一つ「Custom House」に向かいました。Google Mapに従いながら向かった我々が、目的地について驚いたのは、まずその建物の存在感でした。WeWork のポートランドオフィスとして、リノベーションし再利用しているのは、1901年に建てられた国税局の公社です。17世紀英国ルネサンス様式を模して造られた荘厳な造りで、本当にここがシェアオフィスなのかと疑ってしまうほどでした。堅牢な門をくぐり建物の中へ入ると、100年以上前の香りを残した豪華なエントランスホールが広がり、そこで受付を済ませます。事前に申し込んでいたので、館内を一通り案内してもらいました。施設内には、大小のプライベートデスク、オープンエアーのシェアードデスク、オシャレな調度品やフリードリンクエリアのある共用部分やミーティングルーム、レクリエーションホールなどもあり、どの部屋も高い天井に大きな窓が並び、とても広々とした気持ち良い空間が広がっていました。日常を忘れ、プロジェクトに集中し、ひらめきを得られるようなイベントや、癒しの空間なども充実していました。たしかに、クリエイターであれば一度は利用してみたいと思えるような、素晴らしい環境といえるでしょう。
オープンデスクで月/295ドル、プライベートオフィスになると月/600ドルという価格で、世界中のWeWorkオフィスを使えるというのは魅力的だとも感じましたが、実際の館内は、現地に赴いた日の前日に、40十年分ぶりの大雪が降った影響のせいか、ガラガラで閑散としていました。
グローバルに活躍を目指すクリエイターやアントレプレナーのメッカとも言えるWeWorkオフィスを訪問したあとは、その対照的とも言える「リモートワーカー」という働き方をする人に話を聞いてきました。
〜リモートワーカー Dannyさんのお話〜
リモートワーカーとは、文字どおり会社や組織に所属していながらも、在宅もしくは遠隔地から仕事を進めるという新しい働き方をする人のことです。リモートワークを推進する企業側の目的としては、オフィスを縮小化することによってオフィス賃料やその他の経費の削減が可能だということ。また、社員の無駄な通勤時間を減らし、リラックスした環境を提供することで、従来よりも作業効率や生産効率の向上が認められているからだそうです。
世界最大級のホテルチェーン、マリオット・インターナショナルにて、USフィールドアナリスクマネージャーを務めるDannyさん。彼はいま話題のリモートワーカーです。
彼の仕事は、担当するホテルの売上データの分析や、稼働率向上の為のコンサルティング業務などで、現在はサンフランシスコとロサンゼルスの部署を担当しています。彼は現在、ポートランドで日本人の妻と、もうすぐ2歳になる息子と暮らしながら、在宅で仕事を行うスタイルをとっています。現在、日本でも注目されている新しい働き方「リモートワーク」を実践するDannyさんに、お話を伺いました。
———Dannyさんはどんな経緯で、現在のワーキングスタイルになったんですか?
リモートワークの良いところ、わるいところも教えてください。
近年、アメリカではマイクロソフトやSONYなどの、大手企業にもリモートワークを推進する動きが進んでいるよ。最近ではリモートの社員が多くなっているから、オフィスのサイズも縮小する傾向にあるんだ。僕自身、リモートにした方が生産性が上がったと感じているよ。
僕の会社でも、以前はオフィスから50km圏内の人は通勤を義務付けられていたんだ。しかし、大都市圏にオフィスがあるため、頻繁に起きる交通渋滞のせいで、通勤に1時間半かかることもしばしばあって。あとは、オフィスで電話を受けることもあったんだけど、僕の仕事の場合は、物理的にそこにいる必要はないとも感じていたし、ほぼ全ての仕事が自宅でできるからね。それと、僕の上司は僕の仕事を信頼してくれているから、仕事に支障がなく互いにコミュニケーションが取れていれば、僕が、いつ、どこで仕事をしていようと、彼はそれを関知しないのさ。
この働き方のいいところは、まず、なにより通勤時間が5秒なところだね(笑)。
あと、人には生産性の高い時、低い時って波があると思うんだ。そういうときは、自分のタイミングで近くのカフェにランチを食べに行ったり運動をしたり、リフレッシュして仕事をすることができるところかな。
わるい点は、家にいるのに、仕事中は家族に対してあまりサービスができないことかな。リモートワークって、自由に自分の時間で仕事が出来ると思うかもしれないけど、実はそうとは限らない。家にいてもドアを締め切って仕事をしているし、妻や息子とあまりコミュニケーションが取れないこともしばしばある。週3~4回は早朝に定例会があって、静かにしてもらわないといけなかったり、家族の理解・協力も必要だと感じるよ。
——— 近年、ポートランドが注目されている背景ってなんだと思いますか?
シリコンバレーで働くひとたちも、自然に囲まれたスローライフをもとめて、ポートランドに家を買う人が増えているよ。シアトルに比べて価格も安いし、仕事をリモートにして生活の質を上げようとする動きがあるように感じる。メディアでもたくさん取り上げられて、全米でポートランドが注目されるようになって、休暇をポートランドで過ごしたいと思う需要も増えているよ。
日本でこんなにポートランドが注目されているとは、正直かなり驚きだったけどね。笑
——— Dannyさんにとって「働く」とはどういうことですか?
自分の興味があることを追求すること。
ここ数年は、仕事もとてもおもしろくなってきて、それをより追求する為に、今は仕事をしながら大学院に通って学位を取るために勉強しているよ。それもあって現在のワークライフバランスは、勉強・仕事の比重が大きい。卒業後は今の仕事に応用できることも沢山あると思うし、それによってこれからのワークライフバランスも変わってくるんじゃないかな。
——— ありがとうございました。
Dannyさんのインタビューに出てきたように、日本でもワークライフバランスが重要視されるようになりました。仕事とは、第一に生活の糧をえる手段であるのは疑いのないところです。しかし、そのバランスが崩れ、人生を楽しむこと自体を奪われるような事例が多く存在するのも周知の通りです。このようなことから日本でも数年前から「働き方改革」が叫ばれ、様々な企業で在宅勤務・リモートワークを奨励する流れが出来つつあります。上述したDannyさんのような働き方をする人が、今後日本でも増えていくことでしょう。
〜多様化する働ききかた〜
一方、リモートワークを推進する数多くの大企業が存在する傍らで、実は在宅勤務という働き方を廃止する動きもあるようです。最近では、米ヤフーがリモートワークを廃止したのに続き、IBMやバンク・オブ・アメリカもリモートワーク廃止の方針を打ち出しました。IBMはこれまで長年に渡って積極的に在宅勤務を推進していたこともあって、このニュースは大きな驚きをもって受け入れられているようです。米国の一部の企業で、このようなリモートワークを廃止・縮小する動きが出てきている背景には、オフィスにおけるコラボレーションが育むイノベーションへの期待があります。リモートワーク廃止を打ち出している企業のほとんどが、従業員が同じオフィスで直接顔を合わせるコミュニケーションの化学反応から生まれる、新たなイノベーションが重要と考えており、それによって業務のスピードアップも期待できるとしています。これらの企業にとっては、イノベーションの価値が、高額なオフィスの賃料よりも価値があるということです。
しかしながら、現在アメリカでは、全体の労働に対して、2割の人々がすでにリモートワークを実践しています。日本でもクラウドソーシングなど、新しい働き方が浸透しつつあります。また数多くの企業が従来の働き方から、新しい働き方への改革を宣言し実践し始めています。数多くのサービスやアプリ、ガジェットなどの後押しもあり、このリモートワークや、シェアオフィスなどの新しい働き方が拡大する流れが止まることはないでしょう。
我々が暮らす21世紀では、情報革命のもたらした流れによって、人々の暮らしに変革がおき、それに合わせて働き方も多様化しています。自分に合ったワークライフバランスをとりながら、さらにその質を上げていくにはどうしたらいいのでしょうか。
世界中の人々が求める問いへの答えは、当然それぞれのの主観や価値観によって大きくことなりますが、私たちNNメンバーが、今回のポートランド調査旅行によって、改めて感じたこと。それは、ポートランダーのように、働くこと、遊ぶこと、食べること、家族を大切にすること、など、暮らし全体の中で、ワークライフバランスをとりながら、人生を楽しむということでした。そして、その価値を高めていくためには、どのような仕事や生活においても、気持ち良く、楽しんで過ごせる空間設定がとても大切だということでした。
自由の国アメリカで、いま最も自由に羽ばたく街ポートランドで得た様々な経験を、今後は、我々NNメンバーのフィルターを通し、様々なプロジェクトの中で活かし、社会に提供していきたいと思います。
まずは、楽しむことから!「Keep Wired ! Keep Fun !」
WRITER:DAG FORCE